アルスを途中まで送った後、本来の帰路を歩きやっと自分の家に着く。
辺りはすっかり暗くなり、ちらほら星たちが夜空に顔を出している。
俺の家は川沿いに並んでおり、河口から3軒目に建っている青い屋根と焦げたクッキー色をした壁でできた2階建。
1階の半分は親父の商店になっている。
歩道の外灯に照らされて、そのシルエットをあらわにする鍛鉄の看板がこの店の目印、俺が手を延ばしてもギリギリ届かない位置にある。
看板は剣と盾がクロスしてたデザインで、見た目通り槍や剣などの武器、盾や鎧などの防具を取り扱っている店だ。
辺りは暗くなっているが、この時間でも店は閉めていないので、邪魔にならないように裏口から入った。
母は子供のころに亡くなっており、今は親父と妹の3人で暮らしている。
ドアを開けるとテーブルがあり、そこに今晩の夕食が2人分置かれている。
親父のと俺のだ。
奥の部屋を覗くと、うつ伏せになっている妹がいた。
今日の夕食当番は妹なので、作り終わった後疲れて寝てしまったのだろう。
顔を近づけると、どうやら絵を描いているうちに寝てしまったようだ。
その姿は今のアルスを連想させる。起こさないようにそっとしておこう。
夕食をトレーに乗せ階段を上る。
階段を一段ずつ上るたびにギシギシと音がする。
俺が子供のころから住んでいて使いつくされているためなのだろう。
2階に着く。
右を向き、短い廊下を歩いた先が俺の部屋だ。
家の中で2番目に広い部屋。
本棚には、武道の本、槍、解術の本、今は解術の本の方が多いかもしれない。
何回かアルスの家を訪れ彼女の本棚を見たことはあったが、それとは比べ物にならないほど乏しい本の数だ。
木の壁には親父が仕入れのための出張で買ってきたお土産品で、変わったデザインの時計が飾られている。
長針が鳥の獣、短針が蛇の獣。
気分転換に、2匹の獣について調べたことはあったが、結局分からなかった。
自分の本棚だけでは文献不足で見つからないのか、そもそも、その獣が実在していないため見つからないのかは不明である。
夕食が乗ったトナーを机の横に置き、食べながらアルスから借りた禁書を読み始める。
何回かアルスに食べながら本を読むのは行儀が悪いと言ったことがあったが、今の俺の姿はとてもアルスには見せられない。
いや、早くかかった魔法を解くため夕食と並行して読んでいるのだと理由を付けて自分の中で正当化した。
***
時計の蛇の獣が3回転したころ…
「あーーーさっぱりわからん!」
椅子に座ったまま手を伸ばし、上半身を後ろに傾ける。
『元の体に戻す』と大見得を切ったはいいが、これは予想以上に難しいかもしれない。
とりあえず一通り、禁書のべてのページに目を通したが、すべて古い文字で書かれていたため、俺が持ち合わせている知識ではとても読むことはできない。
せいぜい分かるのは簡単な単語と数字くらいだ。
まずは翻訳から始めなければならず、アルスが使った魔法の解除方法探すのはそれからだ。
ここである人物が思い浮んだ。
できれば俺一人の力で解決したかったが、やむを得ない、彼の力を頼るしかなさそうだ。
特別なプライドがあるわけではないが、俺とアルスの問題だから、他人は巻き込みたくはないのだ。
だが、こればかりは人の助けを借りなければ先に進まないだろう。
もう12時を過ぎようとしていたため寝ることにした。
明日はいつもより早く起きなければならない。
アルスと別れるとき、明日から一緒に登校する約束をしたからだ。
ベッドに入って寝るため、持っていた禁書を閉じようとしたとき、ある僅かな違和感がした。
解術を学んでいたための感かもしれないが、このページだけ何か魔法がかかっている感じがした。
一度は寝ようとしたが、やめてそのページの違和感について調べることにした。
すっかり寝るのを忘れて、今までの解術の知識を頼りに、違和感のある1ページにかかっている魔法を解く方法を探る。
***
気付くと窓から朝の日差しがこぼれていた。
「もう朝か…」
一晩かかってしまったが、何とか魔法を解くことに成功した。
魔法の解除方法は変わらなったが、今日は手ぶらで会わなくて済むと、とりあえず安心した。
が、完全に徹夜をしてしまい、寝不足で授業中に寝てしまわないかが心配だ。
しかも、今日からアルスと一緒に登校する約束をしていたから、なお大変な一日になりそうだ…
とりあえず、学園に向かう準備をして朝食を食べ始めた。