昨日より強い朝の陽ざしに目覚めて、いつもより早く魔法学園に行く準備をする。
今日からメルヴィルと一緒に学園に通うことになったので、その待ち合わせのためだ。
いつものように簡単に作った朝食を済ませ、玄関から外に出ようとした。
すると、すっかり元気になった飼い猫のリリィが見送りにやってきたのだろうか私に近づいてきた。
私はリリィに軽く手を振る。
「行ってくるのぅー リリィ」
「にゃ~」
自分の家を出てからしばらく歩いたところに、メルヴィルが待っていた。
なんか眠たそうな眼をしている。
「おっはよぉ~」
「おはようなのじゃ」
私も挨拶を返すと、昨日の帰りのときのように彼におんぶしてもらった。
これは歩く必要もなく、かつ本も読めるので素晴らしい乗り物だと思ったのだった。
そんなことを思っていると、彼が一言つぶやいた。
「今日の放課後、図書館で会おうな!絶対に忘れるなよ!」
忘れないように念を押された朝の出来事だった。
***
地獄の二日目を終えた放課後―――
「まさかメルヴィルとロイドがお友だちだったとは意外じゃ!」
どうやら彼は禁書を解読しようとしても、自分の力じゃ難しかったようで、古代語を読めそうなロイドに助けを求めたいらしい。
ロイドは私の幼馴染(3話参照)。
子供のころ一緒に魔法使いの師匠のもとでに魔法を学んでいたころ、私が魔法に失敗してはそのおすそ分けを受けており、彼自身はうんざりしているらしい。
そして、いつしか距離を置かれ会話もしなくなってしまった。
魔法初等学校(※1)から同じクラスになるので、つまりは腐れ縁ってことだ。
(※1 小学校みたいなもの)
私の魔法を未来とするならば彼の魔法は過去。対極の位置に存在している。
私は「魔法の未来を切り開くための研究」とすれば、ロイドは「魔法の起源を紐解くための研究」と言っていいだろう。
未来か過去かの違いだけで、魔法の可能性を探ることは共通している。
彼は放課後に図書館で本をいつもの場所で読んでいるので、私たちは彼を探しに図書館に向かった。
学園の図書館は地下にあり、魔法に関するあらゆる書物がここに集まっている。
私にとっては宝島みたいなものだのだが、わけあって私だけ本の貸し出しは禁止になっている。
しばらく歩き回っていると、隅のテーブルに一人で本を読んでいるロイドを発見した。
私たちは彼に近づいて声を掛けることにした。
もうどれくらいたっただろうか?
今日は、久しぶりにロイドに声を掛ける。
すると、ロイドが目の前から消えてしまった。
…が、違ったようだ。
一瞬を目を疑ったが、ロイドは瞬間移動したかのように、私のそばから離れたのである。
「なぜ離れるのじゃ!」
「あなたとは関わらないと決めたのです。」
こどもの頃のことを根に持っているようだ。
「そんなこと言っていいのかな~ロイド!俺は知っているぜ、いつもこっちのほうを見てるのを!好きなんだろリナのことを!」
メルヴィルが唐突なことを言い出した。
こどもの頃の記憶ではロイドは女子を気にする性格ではないのは確か。今も同じだろう。
「違いますよ!何を勘違いしているのですか?」
「おっ、おまえ、まさかリオのことが!男に興味あるのか!!」
ロイドから距離を置く私とメルヴィル。
「なぜ離れるですか!」と突っ込むロイド。
「いつのまにそんな趣味を持つようになったのかのぅ、でも、そんなロイドに少しだけ興味があるのじゃ!」
私だけ、元の位置に戻る。
「また、何を勘違いしてるんです!」
「お、お前、まさか俺のことを… いつも俺のこともそんな目で見ていたのか!」
「まさか!あーもうこの際だからハッキリいます、僕はロレッタが気になるんです!」
「「ぽん!なるほど」」
「あなたたちの思考回路は一体どうなっているんですか…」
「でっ、なんなんですか、僕を茶化しに来たんですか?」
メルヴィルは禁書についてロイドに話をした。
「っというわけでな、どうにか訳せないか?」
「仕方ないですね…しばらくその本を借りますよ。いいですねアルス。」
「大丈夫なのじゃ!」
メルヴィルが持っていた禁書をロイドに渡した。
「俺ちょっとトイレにいってくるわー」
メルヴィルが席を離れると、ロイドから一言。
「メルに感謝しましたか?」
「毎回感謝してるのじゃ!」
「態度に現れませんね…そもそも、どうやってクラスが離れているあなたの状況を知ってやってきたと思いますか?」
「第6感かのぅ?」
「いいですか? 僕らの教室の対角線上にメルのクラスがありますよね、アルキメデスにメモ書きを持たせて飛ばして、中庭間を行き来きさせることで、連絡を取り合ってたのですよ。」
アルキメデスとはロイドのペットである白いフクロウの名前。
魔法学園は中庭を中心にロの字型の校舎が囲っており、校門を正面として左奥の角に私たちの教室があり、メルヴィルの教室はその対角線に位置している。
「ぽん!なるほど」
「あなた意外と鈍感ですね…」
メルヴィルが帰ってきた。
「メルヴィルさん!ありがとなのじゃ!」
軽く抱きつくわたし。
「なっ何があったんだ!?」
「日頃の感謝なのじゃ!」