「そろそろいいですか?僕はもう帰りますよ!」
ロイドは若干ズレかかっているメガネを直し、この場から立ち去ろうとしていた。
「ちょっと待った!」
帰ろうとするロイドをメルヴィルが引き留めた。
「肝心なことを忘れてた…。この禁書に何か魔法がかかっているようなページがあってだな。それを徹夜で解いて来たぜ!」
どうやら、この禁書に私には知らない何かがあるようだ。
「この本、禁書と言うのですか?今初めて聞きましたよ」
「私が勝手に言っているだけじゃ!見た目が『禁書』っぽいじゃろ」
半分、呆れたような顔をするロイド。
「で、そのページは何なんです?」
「私も気になるのじゃ」
「ここのページを見てくれ!」
メルヴィルは禁書の真ん中あたりを開き、1ページを右手で持ち上げて、そのページを左手の人差し指で指した。
「説明のために、また魔法をかけなおしたんだけどな。実はこのページには秘密があるんだ」
彼は小声で短い呪文を唱え、持ち上げている1ページを手から放したと同時にそのページの周りが光り出し、2枚に分裂し始めた。
「これが、このページにかかっていた魔法の正体で隠蔽魔法の一種。つまり、ページが隠されてたってことさ!」
「お手柄じゃ!メルメル!」
とりあえずメルヴィルを褒めた。
「よっしゃ!これでアルスは助かるな!」
身長差はあるのだが頑張って彼と手お合わせて喜びを分ち合った。
「あなたたち、まだこのページに何が書かれているのか分からないのに、喜ぶのはまだ早いんじゃないんですか?」
「あっ…そうか」
「ご、ごもっともじゃ…」
ロイドから的を得たツッコミを貰った二人だった。
「見た感じですが、書かれている古い文字と独特の魔方陣から、この本は今から1000年以上前に書かれたものだと推測できますね。」
「「ほほう」」
「この時代といえば、魔王がこの世界の大半を支配していたと魔法史には記録されていますね。」
「魔法史で習ったかな?」
「習ってないのじゃ!」
私が記憶している限り、魔王が世界を支配していた歴史は習ったことはない。
メルヴィルでさえ知らないのだから、習ったことはないと思われる。
「この時代の魔法は、今使われている魔法とかあまり関係ありませんからね。僕のように古代史や考古学を学んでいる人しか知らない歴史でしょうね。」
「さすがロイド博学だな!」
「さすがじゃ!」
ロイドを褒める二人。
「褒めても何も出ませんよ…まぁ、とりあえず、この本は持ち帰ってゆっくり読ませてもらいます。」
今度こそ、ここから立ち去ろうとするロイド。
「ゆっくりとは言わず、早めに翻訳して欲しいのじゃ。」
「僕は自分のペースで読むのが一番集中できるんです。誰かに命じられると、かえって調子が狂います。」
「まぁ、急がず焦らずゆっくり早くいこうな!」
ロイドは読んでいた本と禁書も持って、この場を去った。
なんとかロイドに禁書の解読をお願いすることができたので内心はホッとした。
「そういえばアルス!明日武術の授業があるけど、その体で大丈夫か?」
「…………」
言葉が出なかった。
私の辞書に今の心情を表す言葉は見つからなかったからだ。
もともと私は運動することは苦手で、武術の授業は学園生活で一番の鬼門だった。
今の体になって歩くのにも時間がかかってしまうのに、さらに武術となると歩く以上に体を激しく動かすので、いつも以上に厳しくなることは容易に想像できる。
「メルヴィルさーん助けてくれなのじゃ!明日休みたいのじゃ!」
「よし!今から特訓だ!」
逃げようとしたが、あっさり捕まってしまった。
その後、彼のおせっかい特訓が日が沈むまで続いたのだった。