「運動は苦手じゃ!」
っと悲鳴を上げた理由は言うまでもなく、今の授業が武術だからである。
今日は武術の中でも槍術(そうじゅつ)の実技を行っている最中だ。
昨日、メルヴィルの一方的な特訓の成果はあまり見られず、むしろ筋肉痛で苦しみが増したくらいだ。
槍術は2人1組になってやっており、武術の先生には身長差があるので練習は無理と伝えたが、今の私を除いてクラスの中でも一番小柄なレナと練習するよう引導を渡された。
ちなみに、小さくなる前はロレッタと組んでいた。
「もうダメなのじゃ!やりたくないのじゃ!」
「アルちゃん、がんばろうよ!」
稽古用の木製の槍を手に持ち、練習をしながらレナに愚痴をつぶやいていた。
「槍なんかでつっついてどうするのじゃ!」
「う~ん、例えば、ええと、魔獣が襲ってきたときに役に立つと思うよ!」
「槍を使わなくても魔法でなんとかできるのじゃ!」
「アルちゃん、魔獣と戦ったことあるんだ!」
「それは、ないのじゃ…」
「ないんだ…」
会話が少し弾み始めたころ、先生が授業の終わりを告げた。
「はい、今日はこれまで!」
私は持っていた槍を地面に置き、その場に座り込んだ。
「やっと終わったのじゃ…」
「アルちゃん、おつかれさま~」
この後はお昼の時間、ただ疲れ切っていて昼食を食べる気力がない。
「一緒に、お昼食べてもいいかな?」
へとへとな私にレナが誘ってきた。
断ろうと一瞬思ったが、とても愛くるしい顔だったので、とりあえず食堂まで付いていくことにした。
***
いつものように生徒たちで溢れている食堂に着いた。
今は何も食べる気がしない私はミルクをグラスに入れた。
そんな横で片っ端から皿に持っているレナの姿があった。
皿には、空揚げ、ハンバーグ、パン、サラダ、果物など幅広く盛られている。
まるで食べ物のボリューム満点タワーだ。
とても、女の子が一人で食べる量ではない…
そういえば、レナと食事をするのは初めてだ。いつもこんな感じなのだろうか?
「いただきまーす!」
私は彼女が盛ったご馳走を勢いよく食べてるを姿を眺めており、人は見かけによらないものなのだと思ったのだった。
「アルスちゃんお待たせ~、食事中だけど失礼するねー」
私とレナの二人でいるテーブルに、笑みを浮かべながら声をかけてきたのはロレッタ。
この3人だけで揃うのは久しぶりな気がする。
ロレッタが声かけてきたということは、頼んでいたアレが仕上がったということだろう。
「今大丈夫かな?これを渡そうと思ったんだけど…」
「大丈夫なのじゃ」
仕立て直してもらった制服3着を私は受け取った。
「ありがとうなのじゃ」
制服が合わなくなっため、ロレッタに今の私に合うようにサイズを調整してもらっていたのだ。
私は私服を持っておらず、そのかわり制服を何着か持っていて、学園生活もプライベートも制服を着用している。
魔法初等学校の頃は指定の制服はあったが、学校以外は私服を着ていた。
この学園に入ってからはずっと制服のままだ。
なぜかというと服選びに時間を掛けるのが勿体ないという理由だ。
「相変わらず、よく食べるね~レナちゃん」
「もぐもぐ」
食べながらうなずくレナ。
「アルスちゃん、女の子なんだから、制服だけじゃなくて、もっといろんな服があったほうがいいんじゃない?」
「ふだん、学園に通うとき以外は、ほとんど外出しないからのぅ~、今は制服だけで十分じゃ!」
「もぐもぐ」
「アルスちゃんが制服以外の服を着たのを見たのは、あの時以来だな~」
「あの時かのぅ」
そう、私が学園に入学してから制服以外の服を着たのはあの時。
本の買い過ぎで学費に充てるはずのお金に手を出してしまい困っていた時、ロレッタに誘われてとあるアルバイトをした。そのバイト先で着たメイド服が制服以外で着た服だ。
「もぐもぐ、どんなの着たの?」
お食事中のレナが会話に参入してきた。
「それはね~」
「もう、この話はやめなのじゃ!」
っと、話を強制終了させて、手元にあるミルクを一気に飲み干した。
「今度、服を買いに行こうね!アルスちゃーん」
明るいトーンで笑みを見せながらロレッタが言った。なぜか僅かながらの攻撃性を感じだ。
「機会があればのぅ、付き合ってあげてもいいのじゃ!」
「私が、アルスちゃんに付き合ってあげるだけどねー」
「もぐもぐ、ごくん」
どうやらレナが食べ終えたようだ。
「そうだ、私もお昼食べないと…」
と言ってロレッタは自分の食事を確保しにいくためテーブルを離れた。
なぜか彼女が離れてホッとした。
「じっーーーーーーー」
私を見つめるレナ。長い前髪で目は隠れているが、その奥から熱い視線を感じた。
「どうしたのじゃ?なんか怖いのじゃ!」
「アルちゃんの、制服以外の服…」
「あの話を掘り返すのはダメなのじゃ!」
そんな私たちの3人の昼食の時間だった。