第1話『還りの魔法』
私の昔からの友達、リリィ。
この子は拾い猫で私が5歳のころ拾ってきた。
はじめは両親に反対されていたがなんとか飼うことに成功したことは覚えている。
そんな私の飼い猫リリィだが、病気で衰弱していて今にも死にそうな状態だ。
一週間くらい前から手足が震えだし、今では虫の息だ。
「リリィ…」
苦しんでいる姿を見て、小声でささやいた。
私の家にはとても古い魔法の専門書があった。
今の魔法学園に入学するとき実家から勝手に持ち出してきたものだ。
表紙は汚れておりタイトルは読み取れなかったが、他の本と比較してみても類する内容がほとんどないことから、私はこの本をことを「禁書」と呼んでいた。
禁書の中には、時を戻す魔法が記されているページがあり、その魔法を発動させるための魔方陣と材料リストが載っていた。
私は、その材料を必死になって掻き集め始めた。
ちょうど季節は雨季に入り、毎日のように雨風がとても強かったが、そんなことはどうでもよかった。
早く時を戻してリリィの元気な姿をもう一度見ることで頭がいっぱいだったからだ。
そして材料を集め始めて一週間が過ぎた日の夜、やっと材料がそろった。
ふと視線を外に向けると今も窓越しの景色は慌ただしい。
視線を戻し布に魔法陣を描き、指定された場所に集めた材料を置くいていく、禁書に書かれている分量をしっかりと確認しながら。
その上に小刻みに震え、苦しそうに呼吸をするリリィをそっと乗せる。
「今助けてあげるからのぅ、頑張るのじゃ、リリィ」
そして、禁書に書かれた呪文を唱える。
すると魔法陣から光りが溢れ、辺りが真っ白な粒子で満たされていくと同時に得体も知れないパワーが私を魔法陣から遠ざけようとしていた。
まだここで、呪文を終わらせるわけにはいけない!
続きがあるため堪えて残りの呪文を唱える。
やっと唱え終えたと思うと、私は材料集めの疲労と魔力を使い果たしたせいか、
めまいが襲い、意識を刈り取られていく。
それから何時間くらい過ぎただろうか。
まぶた越しに陽射しらしき光を感じる。どうやら外の雨風はおさまったようだ。
何か懐かしい声が聞こえる。
次第に意識がハッキリしていくと、その声は最近は聞くことのできなかった元気なころのリリィの鳴き声であることが目を閉じている状態でも感じ取れる。
あまりの嬉しさに私は目を開けると少し遠くにリリィが歩いているのがうかがえる。
今すぐにでも抱きしめたいという感情が込み上げ、立ち上がってそばに寄ろうとしたが、何かにつまづいてしまった。
なんだかいつもと比べて体が軽くなったように感じる。
体の方に目を向けると、なんと、着ている服がブカブカなっていたのだ。
ふと辺りを見てみると、いつも見ているものとは異なっていた。
深く考えることよりも、とりあえずリリィのもとに寄っていき抱きしめた。
「よかったのぅ! リリィ」
無意識に両目から涙があふれる。
しばらく止まらなかったが、ぼやけた視界で辺りを見回すとちょうど横に鏡があった。
涙をぬぐい自分を鏡で見ると、そこには幼い女の子の姿があった。
私は思考をフル稼働させ現状を把握しようとする。
原因として考えられるのは1つしかない。
そう思った私はあわてて、魔法発動の現場に向かうが、サイズの合わない服が邪魔をしてなかなか前に進めない。
やっとの思いで現場にたどり着き机の上にある禁書を取ろうと思ったが、机が高くて取ることができない。
近くにあった木箱などを積み重ね3段くらいの手作りの階段を作った。
やっと禁書を手に取ることのできた私はすぐに内容を確認する。
「分量を間違えてしまったのかのぅ…」
どうやら「1」と「7」を見間違えたせいで、自分にも魔法がかかってしまったようだ。
正しくは材料Aに関して分量は1であったのに、7倍も多くしてしまったため、影響範囲が拡大したのだと読み取れた。
体のことも気にはなるが、何日も休んでしまった学園も気になるので明日から復帰することにした。
そのためには、疲れた体を癒さなければならないと考えベッドに潜り込んだ。
***
朝の陽ざしを感じるとともに、目が覚めた。
ベットで寝たのは久しぶりだった。
いつもは作業机で魔法の本を読み、気づいたら寝落ちしていることが習慣になっているからだ。
寝ぼけ眼をこすり、もう片方の手を見ると本を持っていることに気付いた。
寝落ちするのは机でもベッドでも変わらないようだ。
一緒に寝ていたリリィはまだ夢の中のようなのでそっとしておこう。
ベッドを降り、制服に着替えたり本をカバンに詰め込んだりと、学園に行く支度をする。
体が小さくなったことでいつもより歩幅が狭くなり、移動するのに時間がかるのに気づく。
そんなこんなで、この体の不便さを感じた朝だった。